「裸踊り」なんて言われることもあったが、
恵美子さんはその国の踊りを踊らせてもらっている、という思いがあった。
世界にはさまざまな踊りがあり、その国の人々が踊るようにはいかない。
しかし、逆に日本人にしかできない踊りがある。
もちろん、外国人の大胆な踊りもすてきだ。
しかし外国人と同じにはいかないし、同じにはしない。
日本人は勉強家で、手、指の美しさがある。
しなやかできめ細かく、内面をも表現する踊りが日本人の踊り。
初めてのハワイから約20年後、恵美子さんはフラメンコの本場・スペインを初めて訪ねた。
「これが、私が先生としてあなたにしてやれる最後のレッスンかもね」。
香取さんはそう言って、恵美子さんをスペイン旅行に誘った。
2人は香取さんが初めてスペインに留学した際に寄宿したモラレス家に世話になり、
舞踊スタジオを訪ね、ギター奏者に会った。
香取さんの紹介で、恵美子さんはある夫妻のレッスンを受けた。
フラメンコのなかで美しい旋律で知られる「ラ・カーニャ」
の振付け指導で、恵美子さんの一生の宝物になった。
香取さんは夫妻に「日本でよくここまで育てましたね」と誉められた。
あとで香取さんは恵美子さんに打ち明けた。
「恵美ちゃん、とてもうれしかったわ。
本当にこれで、肩の荷が下りる思いだわ」と。

踊りの真髄